『新感染 ファイナルエクスプレス』は、新たなゾンビ映画×ここは俺に任せて先に行け!の金字塔である!
こんにちは、もとむらはじめ(@motomurahajime)です。
今回取り上げる映画は『新感染 ファイナルエクスプレス』。
いつもの立川シネマシティのaスタジオ、もっとも音響の良い劇場で観てきましたよ。
公開前から映画ファン界隈では「今年ナンバーワン」の呼び声が高かった本作、TOHOシネマズ系列では上映されていません。
それでも日本国内で上映される韓国映画で、この規模はなかなかないんじゃないでしょうか。
ではでは、感想&レビューへとまいりましょう。
いつものようにネタバレしてるので、鑑賞後の閲覧推奨です。
- 映画『新感染 ファイナルエクスプレス』
- さらっとあらすじを
- ハリウッドの「お家芸」にアジアのゾンビが殴り込み!
- 高速鉄道の密閉空間×ハイスピード系ゾンビの相性の良さたるや!
- ゾンビ映画の楽しみは「攻略法」にあり
- ここ(KTX)は俺に任せて先(プサン)に行け!
- 唯一の回想シーンで思ったこと
- 絶望と希望が交錯するラスト
- というわけで、まとめ
映画『新感染 ファイナルエクスプレス』
公式サイト:http://shin-kansen.com/
【原題】부산행
【日本での公開】2017年9月1日
【上映時間】118分
【監督】ヨン・サンホ
【脚本】ヨン・サンホ
【出演】コン・ユ、チョン・ユミ、マ・ドンソクほか
Yahoo!映画の評価平均点 4.07点
Filmarksの評価平均点 4.0点
僕の評価は100点中 83点
さらっとあらすじを
ソウルで働くファンドマネージャーのソグは、一人娘のスアンと共にプサンに住む離婚した妻に会いに行くため、韓国高速鉄道(KTX)に乗り込む。
そこには、同じく身重の妻を気遣いながらソウルへ向かうサンファ・ソギョン夫妻、高校の野球部のソングクとガールフレンドのジニらが乗っていた。
そのKTX車内で突如起こる、原因不明の感染爆発。
噛まれた者は凶暴化し、見境なく周囲の人間を襲うようになる。
乗るも地獄、降りるも地獄のゾンビ列車がプサンへ向けて疾走する!
ハリウッドの「お家芸」にアジアのゾンビが殴り込み!
ゾンビ映画と言えば、数年前までアメリカ・ハリウッドの専売特許のようなところがあったと思う(香港映画には不朽の名作『キョンシー』シリーズがあるが)。
ところが昨年、「日本人が作るゾンビ映画なんて……」という下馬評を見事に覆し、『アイアムアヒーロー』という無類のジャパニーズゾンビ映画が爆誕した。
それに続いて新たなゾンビ映画の金字塔を打ち立てたのが、本作『新感染』だ。
韓国高速鉄道KTXを舞台に、凶暴な感染者と乗客たちの生き残りをかけたデスロードが幕を開ける!
高速鉄道の密閉空間×ハイスピード系ゾンビの相性の良さたるや!
車輌のどこにも逃げ場はない、降りたところで安全地帯もない。
密閉空間の緊張感と後戻りできない絶望感は、まさに「地獄行きの棺桶」。
その中で繰り広げられるサバイバルと、悲喜交交(ひきこもごも)の人間模様。
家族よりも仕事を優先するダメ父親とその娘。
ただの足引っ張りに見えるホームレス。
おすぎとピーコのような訳あり?老姉妹。
「リア充氏ね」とは死んでも言えない野球部の高校生カップル。
「とにかく死ね」と言いたくなるバス会社の専務……
そんな一癖も二癖もある登場人物たちが、未曾有のゾンビパニックにそれぞれの立場で立ち向かい、人間的に成長する者もいればゾンビよりたちの悪い者もいる。
とくに本作は、観た人だれもが背中に「漢」を見たマ・ドンソク演じるサンファに言及せざるを得ないだろう。
ゾンビ戦ではまるで軍人か格闘家かと思うような戦闘力を発揮し、素手一本でゾンビを屠っていく姿に惚れ惚れする。
しかも、ただのパワータイプではなく、本作でもっとも血の通った人間味のあるキャラとして描かれている点にも注目だ。
同じく身重ながら最後までスアンを守った、サンファの妻ソギョンの姿にも胸が熱くなる。
ゾンビ映画の楽しみは「攻略法」にあり
『アイアムアヒーロー』もそうだったが、得体の知れないゾンビに攻略法を見出すシーンこそ、昨今のゾンビ映画の醍醐味と言えるだろう。
中盤、ゾンビたちは「どうやら鳥目(暗闇で目が効かない)らしい」「音に反応するらしい」ということがわかる。
そこからソグ・ヨングク・サンファの3人が、愛する者たちが助けを待つ別車輌へ。
ゾンビをかいくぐって車輌から車輌へ移動するシーン、これがまたアガるアガる。
ほとんど唯一といっていい、BGMも軽妙なものになり、素手でゾンビを屠るサンファを先頭に3人はゾンビの群れを突破していく。
ここで大活躍するのが野球部の「バット」である。
バットの対ゾンビ兵器としての有用性が遺憾なく発揮されるシーンは非常に清々しい。
やはり対ゾンビ兵器はシンプルに「鈍器」でなくてはならない。
飛び道具など甘えである。
ここ(KTX)は俺に任せて先(プサン)に行け!
ソグ・ヨングク・サンファの3人が快進撃を見せるも束の間、ある人物の心無い行動により事態は最悪の展開へ。
まあこいつが本当にクズで役立たずで悪人面で最高なんだけど。
さあここから、怒涛の「ここは俺に任せて先にいけ!」展開ですよ。
ゾンビがハリウッドのお家芸なら、「ここいけ」はアジア映画のお家芸。
『新少林寺/SHAOLIN』や『孫文の義士団』などに代表される、最高に辛くて最高に燃える展開である。
どうやら終点であるプサンに到着すれば、助かる道があるという展開に。
ただしこの『新感染』、主要キャラだろうが(観客から)愛されキャラだろうが、容赦なく殺しにかかる。
「なんでこいつに死亡フラグ立てんだよ!!」と、心が乱されること必至。
ひとり、またひとりと、命を次に繋ぐため自分を犠牲にする姿に、映画館からもすすり泣く声が……
これだよ……
ゾンビ×ここいけ!
最高じゃあねえか!!
唯一の回想シーンで思ったこと
細かいところなんだけど、ひとつツッコませて!
多くの観客が涙したであろう(実際にあちこちからすすり泣きが)、ゾンビ化するソグが薄れ行く意識のなかで見た、生まれたばかりのスアンを抱いた記憶。
これ、本作で唯一の回想シーンなのだが。
観る前から懸念と言うか思っていたのが、「人が死んでいくときにいちいち回想が入ったらテンポ悪くなるなあ」ということ。
完全に好みの問題なのだけど、こういったパニック映画で回想シーンを差し挟むことは、個人的に悪手だと思っている。
テンポが崩れるし、途端に「あ、いま映画観てるんだ」と現実に引き戻されるようなカンジがするのだ。
できれば、回想シーンなしで本作のクライマックスとも言えるソグの黄昏を演出してほしかった。
たとえば、だ。
ソグが最後までスマホを手放さなかったとして、回想の代わりにスマホに保存されているスアンの誕生ビデオを観るというシーンだったら……
個人的には好きな展開になっていたかもしれない。
貨物車から飛び降りるシルエットも、進行形で見せるよりは結果だけでよかった。
先ほどのスマホ演出を引き継いで、「地面に落ちたスマホが電池切れになる=テグの命が尽きる(ゾンビ化する)」という演出に差し替えてみると、どうだったろうか。
絶望と希望が交錯するラスト
『新感染』でもっともスクリーンに釘付けになり、手に汗握ったシーンがラスト。
「これでメデタシメデタシ、なんて生易しいもんじゃないだろう」という、観客の心理を実に巧妙に操るのである。
「射殺を許可する」の字幕がスクリーンに映し出された瞬間、劇場のどこからともなく「えっ、うそ……」という声が漏れ聞こえてきた。
わかるよ、その気持ち!俺も一緒だ!!
周りに聞こえんばかりの、心臓の鼓動がドキドキ。
あのシーンはもう……ここ最近では久しぶりに絶望を感じた瞬間だった。
この映画、容赦なく主要登場人物を殺しにかかる冷徹さがあるが、最後の最後まで本当に気が抜けない。
だが、このラストシーンの演出が実に……実に最高だった!
仕事の虫で自分のことしか考えていないけど、それでも大好きなパパのためにスアンが歌った歌。
最後に二人を救ったのは、肉体は滅んでも娘を守り抜きたいという、ソグの情念だったのだろう。
同じくサンファも、妻のソギョンのお腹にソョンを託して死んでいった。
本作の舞台である鉄道のように、このラストは二人の意志が、生き残ったスアンとソギョンを絶望から希望へとつないだ瞬間なのだ。
というわけで、まとめ
非常に個人的なことではありますが……
鑑賞後に居てもたってもいられず、知り合いの映画好きの女性にアツく語ったんですよ。
「『新感染』はいいぞ!」と。
そしたら返ってきた答えがこれ。
「わたし、ゾンビが一番苦手なんですよね~」
まあ、ゾンビ映画、ホラー映画が苦手な方は多いと思います。
それでもねえ、『新感染』だけは観てほしい。
ゾンビ映画食わず嫌いの方々に僕が言いたいのは、新日本プロレスの内藤哲也選手のこのひとことですよ。
僕自身は、エンドロール後にどっと心地の良い疲れがくる、そんな鑑賞後感でした。
人間の業をまざまざと見せつけられて、心がズキズキもするけど、最後の最後はあたたかい。
さらに言うと、帰りの各駅停車の電車に乗ってても、隣の車輌に感染者がいるんじゃないかとソワソワしてしまう始末。
現実世界でも余韻を引きずる映画って、やっぱ良い映画なんですよ。
個人的にはゾンビモノに「ここは俺に任せて先に行けモノ」が実に見事にミックスされた、新たなゾンビ映画の傑作と言える作品です。
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