良い知らせと悪い知らせがある

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本当に良い映画も、良くない映画もレビューします。

安心して観られる映画。『マダム・フローレンス! 夢見るふたり』レビュー。

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筆者の厳選記事5選

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出典:映画.com

こんにちは、元村元(@motumurahajime)です。

前回の最新映画レビューから10日ぶりになってしまいました。12月後半は冬休み向けの大作が目白押しなんですが、それまではちょっと間が空いてしまうんですよね~

今回観てきた映画は『マダム・フローレンス!夢見るふたり』です。

gaga.ne.jp

あらすじ

ニューヨーク社交界の顔にしてソプラノ歌手でもあった実在の女性、フローレンス・フォスター・ジェンキンスをモデルにしたドラマ。絶望的な音痴であるにもかかわらずソプラノ歌手になる夢を追う彼女と、それをかなえようと奮闘する夫の姿を描く。(Yahoo!映画)

こちらの記事で選んでいないように、最初は観に行く予定ではありませんでした。

それが、ちょうど筆者が愛聴するTBSラジオ『ライムスター宇多丸のウィークエンドシャッフル』内の映画評論コーナー「ザ・シネマハスラー」で取り上げられるということで、観に行った次第です。

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では、レビューにまいりましょう。

 

本編を観る前に予習しておこう

鑑賞前にある程度の予習が必要なタイプの作品です。おそらくアメリカなどでは有名なお話なんでしょうが、日本人がマダム・フローレンスって言っても、よほどのマニアでなければ知らないと思うんですよね。

それに劇中でも「観客は知っている前提」で進むので、丁寧にお話の背景を説明してくれるようなシーンはありません。せめてWikipediaの記事くらいは読んでいった方がいいでしょう。

フローレンス・フォスター・ジェンキンス - Wikipedia

鑑賞前に知っておいて損はないマダム・フローレンス情報をいくつか。

  • 米国のソプラノ歌手。歌唱能力が完全に欠落していたことで有名。
  • 幼い頃から音楽教育を受け、音楽留学を希望していた。
  • 父親の莫大な遺産で音楽活動を始め、自ら「ヴェルディ・クラブ」を創立して基金を積み立て、歌唱のレッスンを受け、初めてのリサイタルを1912年に開いた。
  • 型破りな歌いぶりで大変な人気を博した。聴衆が愛したのは音楽的能力ではなく、彼女の提供した楽しみであった。
  • 1944年10月25日、76歳の彼女はついに公衆の希望に応じてカーネギー・ホールの舞台に立った。

筆者はまるで予習しなかったので、最初はほとんどついていけなかったんですが、なぜか「マダム・フローレンス」って名前だけは知ってたんですよ。「音痴なくせに金に物を言わせてレコードだしちゃった金持ちオバサンがいたよなあ~」程度に。

それで鑑賞後にいろいろ調べていたら、「ああ、なるほど知ってるわけだ」と。これまた筆者が大好きなテレビ番組「タモリ倶楽部」で取り上げられていたではありませんか。

www.youtube.com

2:30ごろに出てくる「フローレンス・フォスター・ジェンキンス」が、この映画の主人公なわけです。タモリさんはご存知だったみたいですね。その世代の人にはけっこう有名なオバサンだったのかなあ~と思ったり。

 

「マダム・フローレンス」レビュー

まず、上映が始まってからすぐに思ったのが、「『この世界の片隅に』って、これと同じ時期の日本が舞台なんだよなあ…」ということ。

『この世界の片隅に』では、だんだんと食卓が寂しくなったり、若い男性が戦争に取られたりと、物語がすすむにつれて戦争の影が色濃くなっていってましたが、「マダム・フローレンス」ではまったく戦争の影のようなものがない。

もちろん、新聞やラジオでは戦況を伝えるニュースが流れたり、ナチスが話題になってたり、帰還兵が出てきたりもするんですが、まったく戦争の恐怖や悲壮感のようなものはないわけですよ。さらには、金持ちのオバサンが道楽でレコードを発売する始末で…日本はこんな国と戦争してたのかと、そのギャップに唖然としましたね。

まあ、それは重要なところではないので脇に置くとして。

 

これまでメリル・ストリープといえば、『プラダを着た悪魔』『マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙』などで強い女性を演じていたのが印象的でしたが、本作では『マンマ・ミーア!』のママさんキャラに近い感じ。

『マンマ・ミーア!』でその歌唱力を披露していたように、もともとメリルはオペラ歌手を目指していたようで、歌わせれば上手いに決まってるんですが、今回は音痴になるトレーニングを受けたそうです。たしかに、「音痴を演じる」ってなかなかできないことですからね。

どうしても『この世界の片隅に』に感動した筆者は、わがままで天真爛漫で、金の力で夢を叶えたマダムを忸怩(じくじ)たる思いで観てしまうのですが、最終的には彼女の生き様にしっかり心を掴まれてました。

ヒュー・グラント演じる夫のシンクレアも、サイモン・ヘルバーク演じるピアニストのコズメも良い味だしてましたね~

内心ではマダムの歌を小馬鹿にしていても、機嫌を損ねたら職を失うかもしれないという恐怖心で彼女に尽くしていたのが、最終的には彼女の歌に心を動かされ、本気で彼女を守ろうとする姿は、その移り変わりがっかりと描かれていて、感情移入しやすい作りになっていました。

 

物語のクライマックスであるカーネギーホールでのコンサートは、彼女が金の力で開催したコンサートではあるものの、観客として訪れた帰還兵たちは、戦争で疲弊した心を彼女の下手くそな歌声で癒やしたのはたしかなんです。

「歌が上手い、演技が上手いだけがエンターテイメントなのではなく、観客の心を動かし、癒やし、活力としてもらうことこそエンターテイメントなのだ」というメッセージを、この作品からは感じ取りましたね。

ところどころ「知識がないとわからない描写」があるため、何の予備知識もないと、登場人物の行動を疑問に思ったり、ストーリー上大事な部分が端折られたりしている感じはします。

ただ、全体をとおして安心して観られる作品で、おそらくアカデミー賞の候補に選ばれるレベルの良作です。とくに中年くらいのご夫婦におすすめしたい映画。

それでも、今年の日本映画のクオリティからすると、ちょっと物足りなさはあるかもしれませんね。

 

というわけで、まとめ。

当時のレコードはさすがにありませんが、AmazonでCDが購入できるようです。映画をご覧になってマダムの歌声にご興味を持たれた方はぜひ。

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