映画『散歩する侵略者』愛は地球を救う!エンドロールに”サライ”を聴け!!
こんにちは、もとむらはじめ(@motomurahajime)です。
映画界隈はクリストファー・ノーラン監督の『ダンケルク』が好評のようですね。
僕の方はどうしてもIMAXの大画面と爆音で鑑賞したいため、明日までお預けでございます……
さて、そんな折に観てきた映画は、黒沢清監督の最新作『散歩する侵略者』です。
黒沢清監督といえば、アクが強くて「好きな人は好き」という作品が多いですね。
僕は去年の『クリーピー 偽りの隣人』が初黒沢清監督作品でしたが、割りと好きな映画だったので『散歩する侵略者』も観たいと思っておりました。
では、感想・レビューへとまいりましょう。
- 映画『散歩する侵略者』
- さらっとあらすじを
- 黒沢清監督作品だ、心して観よ
- 松田龍平の「容れ物感」
- 本作の気味の悪さは演者の「イッてる目」
- 愛は地球を救う!エンドロールに”サライ”を聴け!!
- というわけで、まとめ
映画『散歩する侵略者』
【原題】散歩する侵略者
【日本での公開】2017年9月9日
【上映時間】118分
【監督】黒沢清
【脚本】田中幸子、黒沢清
【出演】長澤まさみ、松田龍平、長谷川博己ほか
Yahoo!映画の評価平均点 3.33点
Filmarksの評価平均点 3.7点
僕の評価は100点中 68点
さらっとあらすじを
加瀬鳴海(長澤まさみ)は、数日間行方不明となっていた夫・加瀬真治と病院で再開する。
だが、夫はまるで人格が変わったかのように、穏やかで優しくなっていた。
仕事も辞め、日々散歩するだけの夫の変わり果てた姿に、鳴海は戸惑うばかりだった。
その頃、一家惨殺事件を追っていたジャーナリストの桜井は、天野(高杉真宙)という謎の若者と出会う。
天野は自ら「地球を侵略しに来た宇宙人」と名乗り、桜井とともに惨殺事件の鍵を握る女子高校生・立花あきら(恒松祐里)を探し始める。
黒沢清監督作品だ、心して観よ
僕は『クリーピー』が初黒沢清映画というニワカですが、万人向けでない非常にクセのある映画を撮る人だと思っています。
ジャンルで言うと「ダークファンタジー」にカテゴライズされるみたいなんですが、ところどころリアルな演出があると思ったら、「そりゃねえだろ!」とひっくり返るような演出もある。
そのバランスを楽しめる人もいれば、ダメだと感じる人もいるはず。
『散歩する侵略者』で言うと、一家惨殺事件という凄惨なサスペンスが横たわっていながら、同時に「真ちゃん」のカ噛み合わない珍道中を面白おかしく描くコメディも進行する。
そして後半は怒涛の……というより”イッちゃってる”展開で、観客は「行くとこまで行っちゃった世界」に圧倒されて、最後は「何かようわからんけど良いものを観た」という気持ちに落ち着く。
黒沢清監督作品を楽しめるかどうかは、これにのれるかどうかだと思います。
本作はとくに黒沢清監督の目には世界がどう写っているか、人間をどう見ているかが色濃く反映されていましたね。
中盤の桜井のセリフ「明日地球が侵略されるって聞いても、お前らの反応なんてそんなもんだよな!!」なんてまさに監督の本音なのかも。
そういった視点で『散歩する侵略者』を観ると、黒沢清監督の頭の中を覗いているような感覚で楽しめそうですけどね。
松田龍平の「容れ物感」
宇宙人に体を乗っ取られる桜井真治役の松田龍平、最高でした。
以前から独特の雰囲気を持つ俳優さんだと思ってまして、『舟を編む』のマジメ役とか大好きなんですよね。
彼独特の目に生気が宿ってない(褒め言葉)佇まいが、まさに「宇宙人の容れ物感」。
生きているんだけど生気がない役者って、そうそういないですよ。
これが松木安太郎だったら絶対に侵略されなさそうじゃないですか。松木さんはサッカー解説者だけども。
松田龍平だからこそ演じられた「シンちゃん」だったと思いますね。
本作の気味の悪さは演者の「イッてる目」
僕が黒沢清監督の作品が好きなところとして、「背筋にぺっとりとまとわりつくような感じの気持ち悪さ」があります。
今回まず最初にヤラれたのは、もうド頭の金魚すくいのシーン。
こちらが身構えているからかもしれませんが、もうこれだけで「なんだか気味が悪い」となるわけですよ。
続く「一家惨殺事件で唯一生き残った若い娘」って設定でもう「ウワー!黒沢清映画観てるぜ!!」という多幸感を味わう。
「血の海でバタつく金魚」なんて最高じゃないですか。
オープニングからたっぷり”黒沢清節”なるものを味わったところで、本作でずっと気になっていたのが演者の「目」の演技ですね。
冒頭の病院の鳴海が真治と面会するシーンからそれは顕著で。
雑誌を逆さに読み、妙な丁寧口調で話す真治という気味の悪さもあるんですが、それよりも立ち会っていた医者の「目」が怖い。
なんかね、もうイッちゃってるんですよ。
別におかしなところはないんだけど、目に光がないというか、目の奥の闇が深いというか。
同じく目が特徴的だと思ったのは、満島真之介演じる引きこもりニートの丸尾くんですね。
真ちゃんとの噛み合わないやり取りは劇場が爆笑に包まれるほどでしたが、「概念を奪われ」てからの目はどこかイッている印象。
これが確信に変わるのが、東出昌大演じる牧師ですね。
愛という概念を知りたがる真治に愛を説くわけですが、そのときの目がまた怖い。
完全に目がイッてる。
口元は口角が上がって笑っているようなのに、目は笑っていない。
牧師なのに、それじゃ子供たちが泣いちゃうだろ、と。
どうやら東出昌大くん本人も、共演者から「目が笑っていない」とネタにされているようなのですが。
これはもう、意図的な演出だと感じましたねえ。
他にも背筋がヒヤッとするような気味の悪い演出がところどころあるので、ぜひ体感していただきたい。
愛は地球を救う!エンドロールに”サライ”を聴け!!
『散歩する侵略者』の宇宙人は人間の脳と体を乗っ取り、人間の思考から「概念を奪う」という斬新な侵略方法で地球の制服をもくろんでいます。
たとえば、宇宙人に「家族」という概念を奪われた人間は、頭のなかから「家族」という概念がすっぽり抜け落ちてしまうため、肉親に対して他人のような接し方をするようになる。
超兵器によるドンパチの侵略とは違い、非常に恐ろしいというか、黒沢清監督好みの設定というか。
最初に偵察部隊として送り込まれた宇宙人たちは、真治、天野、立花あきらの3人の体を乗っ取り、ある程度の概念を集めたら地球に侵攻するかどうかを決定するんですが、そこでカギとなるのが「愛」の概念なんですね。
ネタバレを恐れずに言うと、けっきょく宇宙人は地球を侵略しなかった。
その理由は、人間の愛の概念を知ったから。
これってまさに、「愛は地球を救う」じゃないか!
『散歩する侵略者』は日本テレビ製作の映画だし……
気付いたときはシートからひっくり返りそうになりましたね。
エンドロールでは”サライ”が流れるんじゃないかとヒヤヒヤしましたよ。
今年の24時間テレビは一切観ていませんが、僕は『散歩する侵略者』でまたひとつ愛が地球を救った瞬間を見届けることができました。
流れてゆく 景色(エンドロール)だけを じっと見ていた
というわけで、まとめ
もうひとつ黒沢清監督作品の特徴というか、僕が好きなところを挙げておくと、女優さんの演技や撮り方がとても魅力的。
今回は長澤まさみ演じる鳴海がとても良かったですね。
夫の奔放さに疲れた人妻が、宇宙人のおかげで夫への愛情を取り戻していくお話として観ると、また長澤まさみがいじらしいんだ。
最後は間接的にではあれど、夫への愛で地球を救っちゃうわけで。
『散歩する侵略者』の前半はコメディタッチで大いに笑わせてもらえますし、そこまでクセの強い作品ってわけでもないので、黒沢清作品童貞の方にもおすすめしたい一本です。
まだまだいくぞ~~~