良い知らせと悪い知らせがある

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本当に良い映画も、良くない映画もレビューします。

『ゼロ・グラビティ』『オデッセイ』に次ぐ宇宙SFの傑作。映画『パッセンジャー』の感想、レビュー。

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筆者の厳選記事5選

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こんにちは、もとむらはじめ(@motomurahajime)です。

3月も末だというのに、寒い日が続いてますね。なかなか冬物が手放せません。

さて、映画界隈では春休み映画が続々と公開されています。とくに熱量を持って宣伝されていた『キングコング 髑髏島の巨神』は、どこも満席が続いているようで。

僕の最寄りの映画館である立川シネマシティも満席続きて、ついに先週末は鑑賞を諦めてしまいました... きっと今週こそは。

ということで、『キングコング』の影に隠れてますが、今回かなり良い映画を観てきたのでご紹介。

クリス・プラット、ジェニファー・ローレンス主演の映画『パッセンジャー』です。

宇宙を舞台としたSF映画は、昨今で言うと『ゼロ・グラビティ』や『パッセンジャー』などが挙げられますが、果たして本作は新たな傑作となり得るのか。

それでは、レビューへとまいりましょう。

 

映画『パッセンジャー』

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映画『パッセンジャー』 | オフィシャルサイト | ソニー・ピクチャーズ

【原題】Passengers

【日本での公開】2017年3月17日

【上映時間】116分

【監督】モルテン・ティルドゥム

【脚本】ジョン・スペイツ

【出演】ジェニファー・ローレンス、クリス・プラット、マイケル・シーン

【あらすじ】近未来、5,000人を乗せた豪華宇宙船アヴァロン号が、人々の移住地に向かうべく地球を出発。到着までの120年、冬眠装置で眠る乗客のうちエンジニアのジム(クリス・プラット)と作家のオーロラ(ジェニファー・ローレンス)だけが、予定より90年も早く目覚めてしまう。絶望的な状況を打破しようとする二人は、次第に思いを寄せ合うものの、予期せぬ困難が立ちはだかり……。(シネマトゥデイ)

映画.comの評価平均点 3.5 点 / 評価:81件

Yahoo!映画の評価平均点 3.72 点 / 評価:372件

Filmarksの評価平均点 3.6点

僕の評価は100点中 90点

各レビューサイトでは軒並み悪くない点数がついていますね。

僕のざっくりとした感想は...

2017年はまだ3ヶ月しか経過していませんが、僕にとっては今年のベスト映画候補になりました。『キングコング』の座席が取れなかったから観た、”ついで”の作品だったにもかかわらず... いやあ、とっても面白かった!

 

『パッセンジャー』の良かったところ

今回は『パッセンジャー』を鑑賞して、僕が「良かったところ」「残念だったところ」と感じた部分に分けて感想を書いてみようと思います。

とはいえ、90点をつけているように、ほとんどが「良かったところ」なんですけどね。

 

「宇宙飛ぶ棺桶に二人きり」という、秀逸な設定

昨今の宇宙開発の過熱を反映してか、多いですよね、この手の映画。言ってしまえば、先に挙げた『ゼロ・グラビティ』や『オデッセイ』と同じように、『パッセンジャー』も宇宙サバイバルもの映画です。

 

サンドラ・ブロック、ジョージ・クルーニー主演の『ゼロ・グラビティ』

 

 

マット・デイモン主演の『オデッセイ』

 

 

こういう映画ってとにかく設定が大事だと思うんですよね。設定の段階で観客に「ええっ!宇宙でこんな状況になったら、いったいどうやって生き抜けばいいんだ!」と思わせたら勝ち、というような。

『ゼロ・グラビティ』なら、無重力空間で独りになった宇宙飛行士が、いかにして地球に帰還するか。

『オデッセイ』なら、火星で独りになった宇宙飛行士が、いかにして救援が来るまで生き抜くか。

この2作は、実際に今から数年後には実現できそうな(起きそうな)設定ですよね。宇宙ステーションでの作業は今この瞬間にも世界中の宇宙飛行士が携わってますし、火星に人類が降り立つのも時間の問題といった感じ。

対して『パッセンジャー』は、宇宙のはるか遠くにある”第二の地球”への移住が実現している世界ですから、あと100年か200年くらいは先の話。なので『ゼロ・グラビティ』や『オデッセイ』に比べると、よりSF色の強い設定となっています。

はるか未来の宇宙が舞台なので、下手すると荒唐無稽な話になりがちなんですが、そんなことは全くなくて。

『タイタニック』みたいに、極限状態での人間の愛だったり性(さが)だったりが描かれているので、共感もするし、自分ならどうするという想像もできるんですよね。

【あらすじ】を読んでいただくとわかるように、まさに「”宇宙飛ぶ棺桶”と化した宇宙船のなかで、男女二人が如何にして生き抜いていくか」

この設定で観たくないわけがない!

余談ですが、宇宙船アヴァロンのデザイン、とても良いですね。隕石を避けるためのシールドがついているところとか、日本人が好みそうな”近未来の宇宙船”っぽさが。

じつはもう一人の主人公でもある、超大型宇宙船アヴァロン号

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【ネタバレ】原発問題に直面した日本人は観ていて歯がゆい

『パッセンジャー』の主人公・ジム(クリス・プラット)に起こる「予定より90年も早く目覚めてしまう」というトラブル、実は「そんなこと、起こるはずがない」という思い込み、思考停止が招いたトラブルなんですよね。

まるで「原発は絶対安全」という安全神話を信じてきた日本人が直面した、福島原発事故のように。

 

ネタバレを承知で、ジムの身に振りかかったトラブルの原因とは何だったのか。

それは、想定されていなかった「隕石の衝突」。

これまで1000回にわたって行われてきた、地球と遥か彼方の宇宙にある”第二の地球”との間の惑星間飛行。盲目的に絶対安全とされてきたこの事業に、たった1度だけ起こったトラブルが重大な悲劇を引き起こす... って、これ原発事故そのものですよ。

観ていて歯がゆい思いをしましたね。どれだけ技術が発展し、安全性能が高まっても、予期しないトラブルが起きたら、何もできなくなってしまう人間の脆さ。安全神話の上にあぐらをかいて、万が一の事態を想定しない危うさ。

何百年も先の未来が舞台でも、こういった共感というか、既視感があるからこそ『パッセンジャー』の中で起こっている出来事は、じつに我が事のように感じられるのかもしれませんね。

 

【ネタバレ】中弛みさせない、持続する緊張感

『パッセンジャー』って、観ていて飽きるところがひとつもないんですよ。まったく中弛みしない。

なぜそう感じたかというと、ピンと張り詰めた緊張感が最初から最後まで持続しているからでしょうね。

最初にセットされる物語的な時限爆弾は「宇宙船が”第二の地球”に到着するまであと90年。独り目覚めてしまったジムが、如何にして生きのびるか」というもの。

これがラストまでのフックになりつつ、中盤では「寂しさのあまりオーロラを目覚めさせてしまう」という罪を犯してしまったジム。いつオーロラにその罪がバレるか、という第二の時限爆弾が投下されます。

さらに、ジムとオーロラの不和だったり、連続して起こる機械トラブルだったりと「この後ふたりはどうなるの?生きのびることができるの?」という緊張感が心地よいほど続いていくわけです。

ただ、張り詰めた緊張感は常にあるものの、辛気臭くなっていないところも素晴らしいですね。要所要所でくすっと笑えるギャグを入れてきています。そのバランスが絶妙。

会場ではところどころ笑いが漏れたり、クライマックス付近では鼻をすする音が聞こえてきたり、ここまで会場全体の感情が一体化した映画は最近なかったように思いましたね。

 

【ネタバレ】観た後に語りたくなる映画は良い映画

昨年ヒットした『シン・ゴジラ』や『君の名は。』がそうだったように、僕は「この後ふたりはどうなったか」「自分ならどう行動したか」などなど、観た者同士で語りたくなる映画は良い映画だと思っていて。

『パッセンジャー』もその手の映画でしたね。先に書いた「ジムの決断」も、人間ならだれもが共感できるもの。

「いかなる状況であれ、人間には他人の人生を犠牲にしてまで自分の人生を豊かにする権利はあるのか」

これは僕自身も、観ていて非常に考えさせられました。「人生を豊かにする」とは、劇中で言えば「孤独な宇宙船生活を、自分が好きになった人と一緒に過ごしたい」ということ。

贅沢と言えば贅沢な考えだし、他人事のように「だからと言って他人を巻き込むなんて無責任」なんて批判もできますが、じゃあ「自分だったら高潔に生きることができるか」と考えると... やっぱりジムに共感するところもある。

このジムの決断と、ラストのジムとオーロラの決断、いずれも劇中で答えを出さず、観客に委ねる形となっています。だからこそ、鑑賞後はなんとも言えない余韻が残るし、観た者同士で語り明かしたくなるんですよね。

 

『パッセンジャー』の残念だったところ

はっきり言って、僕はかなりこの作品にヤラレてしまったので、作品の内容じたいに残念に感じたところはありません。妙な日本語がチラッと映る場面もありますが、それも愛嬌ということでぜんぜん気にならないレベル。

でも、一点だけ言わせてもらえるなら、邦題がちょっと惜しいかなあと。

 

『パッセンジャー』という邦題の残念さ

英語の原題は"passengers"です。複数形なんですね。

これは主人公のジムとオーロラのことでもあり、彼らと運命をともにする5,000人の乗客のことでもある。

劇中、ふたりが地球を離れ、遥か彼方の宇宙にある”第二の地球”に行く目的がそれぞれ語られますが、彼らと同じように5,000人の乗客にもそれぞれ人生があって、目的がある。

なのに「パッセンジャー」という邦画だと、ちょっと片手落ちというか。

まあでも、邦題が『パッセンジャーズ』だと、アン・ハサウェイ主演のスパイ映画がすでにありますからね。最終的に「パッセンジャー」に落ち着くしかなかったというのは同情して余りあるかな。

 

アン・ハサウェイ主演の『パッセンジャーズ』

 

 

というわけで、まとめ。

これまでつらつらと書いてきたように、『パッセンジャー』語りどころ満載の映画です。間違いなく『ゼロ・グラビティ』『オデッセイ』と同じく、宇宙SFの傑作の一本となるでしょう。

若干ネタバレを含みますが、劇中に登場するある人物の「背中だけでこいつは頼れるヤツが現れた」感なんかもぜひ味わってほしい。

ぜひ劇場で!

 

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