良い知らせと悪い知らせがある

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本当に良い映画も、良くない映画もレビューします。

重岡大毅という収穫があった。:映画『溺れるナイフ』レビュー

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筆者の厳選記事5選

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photo by SaminatorH | Flickr

先日の記事で紹介したこともあって、本日観に行ってきました。小松菜奈、菅田将暉主演『溺れるナイフ』。もちろん、立川シネマシティで。

『溺れるナイフ』はこんな映画です。

gaga.ne.jp

東京で雑誌モデルを務める望月夏芽(小松菜奈)は、急に父親の郷里である浮雲町に転居することになる。彼女は都会とはかけ離れた田舎での地味な生活に幻滅してしまうが、長谷川航一朗(菅田将暉)と出会ったことで人生が一変する。彼は田舎町で有名な神主の一族の出身で、夏芽はひねくれ者で一風変わった航一朗に強く惹(ひ)き付けられる。

ちなみに、ぼくは原作は読んでいません。何の前情報もなく観に行ってきました。

今回はネタバレを含むので、以降は自己責任でお願いします。

 

 

(以下、ネタバレ含みます)

 

まず、良かったところと悪かったところを、箇条書きでピックアップします。

良かったところ
・前半のテンポ
・上白石萌音演じる、田舎娘のウザ可愛さ
・重岡大毅演じる、大友の不器用さ
・航一朗の火祭りシーン

悪かったところ
・違和感しかない挿入歌
・強引すぎる「呪い」シーンへの導入
・2度も同じシーンを繰り返されるのは苦痛
・ラストが酷すぎる

では、『溺れるナイフ』のレビューに移ります。良かったところ、悪かったところの順で見ていきましょう。

 

『溺れるナイフ』良かったところ

良かったところ:前半のテンポ

人によっては「話の流れが早すぎてついていけなかった」という感想を持つ方もいるかもしれませんが、ぼくは矢継ぎ早のカットや、観客がついてこれるかどうかを無視した、前半のテンポの早さは評価できると思います。

なぜなら、『シン・ゴジラ』のようにセリフでまくし立てるのではなく、未成熟な青春時代の子どもたちの、言葉にできない感情をアクションでテンポよく見せていたから、です。

たとえば、予告でも話題になっていた、夏芽がこぼしたジュースを航一朗が舌で舐めるシーン。あれだって、航一朗が夏芽に対して抱いた感情を、言葉ではなくアクションで表したものでしょ。

それに、はっきり言ってしまえば、前半はとくに話に大きく絡んでこない、ましてや、さほど面白くもないシーンが続くだけ。無駄は省いてサクサク進めてもらったほうが、テンポの気持ちよさで見続けられたので。

 

良かったところ:上白石萌音演じる、田舎娘のウザ可愛さ

上白石萌音ちゃんはホント上手いなあ〜 小松菜奈ちゃんより、萌音ちゃんをずっと観ていたかった。

というのも、実は萌音ちゃんが出てくるシーンって少ないんですよ。後述しますが、中盤のある事件をきっかけに、主人公の夏芽は塞ぎがちになり、地味めな女の子(あんだけ可愛かったら地味でも目立つが)になってしまうんですが、萌音ちゃんはその逆で、晴れて高校デビューを果たします。その、「田舎の高校にこのレベルの可愛い子、いるよね」感が実に良い。

さらに、夏芽と航一朗の仲を応援してるんだか、引き裂こうとしてるんだかわからない、あのウザおせっかいさがまた可愛らしいじゃないですか。この萌音ちゃんには100点満点を付けたい!

 

良かったところ:重岡大毅演じる、大友の不器用さ

すでに観た人のレビューを読むと、ジャニーズWESTの重岡大毅くんが演じた、大友勝利の評判がいいですね。たしかに、彼が登場するシーンは安心感すらありました。他のシーンが酷すぎるから、というのもあるんですが…。

心の傷を負った夏芽を、ただひとり救い出した男、否、「漢」であることは言うまでもありません。

彼がセリフを噛んだところをわざと使ったりしていたのは、演出としてとても良かったと思いますね。不器用で純粋な感じが良く出ていました。完全にアドリブだったかどうかまではわかりませんが、彼の使い方を心得ている監督の采配はお見事。そんな彼をフッてしまう夏芽が許せないというのはごもっとも。

ただ、彼がカラオケで吉幾三の「おら東京さ行ぐだ」を歌うシーンはもっと短くすべきでしたね。無駄に長い分、大友が気の毒で仕方なかったし、テンポも悪くなる。だれも振られた男が勢いで歌うカラオケなんて長々と聴きたかねーよ。スパっと切ってこそ、潔さがあるってもの。

 

良かったところ:航一朗の火祭りシーン

物語のクライマックス、菅田将暉くん演じる航一朗が、松明を持って舞うシーンは「カッコいい」の一言に尽きます。おそらく『溺れるナイフ』を観に来た菅田将暉くんのファンの子は、このシーンを一番に挙げるでしょう。

反面、この舞のシーンだけ長回しで見せてくれたらよかったのに、余計なカットを挟み込んでいたのが非常に残念。そのせいで、舞の良さがどんどん削られていくようでしたね。たいしてテンポも良くないし。

 

『溺れるナイフ』悪かったところ

悪かったところ:違和感しかない挿入歌

都合2回、ボーカル付きの挿入歌が流れるんですが、これがまたシーンに合わなくて、違和感しかない。観ている絵との不協和音を奏でているし、前に出過ぎて登場人物のセリフが聞きづらいしで、観ていて気持ち悪さすらありましたね。せめてセリフのないシーンで流せばいいのに。

 

悪かったところ:強引すぎる「呪い」シーンへの導入

物語中盤、主人公の夏芽と航一朗の間を引き裂く、「呪い」と言われるある事件が起こります。まあ、起こった出来事じたいは、夏芽の人生にとって大きなトラウマだし、呪いとも言えるでしょう。でも、その重要な「呪い」への持って行き方が、強引に過ぎる。

まず、夏芽にトラウマを植え付ける人物が小物すぎ。「だれこいつ?」感が尋常じゃないんですよ。しかも2回も登場させるんであれば、もうちょっとこの人物を掘り下げないと。ただ単に出しゃばり過ぎただけの脇役にしか見えない。

これが原因で、劇中でもっとも重要なシーンであるはずの、「ふたりが呪いから解き放たれるシーン」が、白けちゃってまったく乗れなかったんですよね。どうせトラウマを植え付けるなら、もっと夏芽に近い人物、たとえばあの気持ち悪いカメラマン(のちに映画監督)にすればよかったんじゃないかと思うくらい。

さらに言うと、中学生ナメすぎでしょ。今日びあんな嘘じゃ小学生すらダマされないよ。それこそ、夏芽を嘘を信じこませるなら、夏芽がこの人物の言うことを信頼するような描写、人物の掘り下げが必要なはず。

この場面でぼくが思ったのは、「急な出来事とはいえ、なんでスマホで確認しねーんだよ」ですかね。

 

悪かったところ:2度も同じシーンを繰り返されるのは苦痛

何度か書いてきましたが、2度も同じシーンを繰り返すんですよ、この作品。しかもほとんど同じようなシチュエーションで。それが苦痛すぎて観るに耐えないし、せっかくの見せ場であるはずの、航一朗の舞のシーンに重ねるように演出するから、邪魔で仕方がない。もう席を立とうかと思いましたね。

しかも、その回収の仕方がまたたちが悪い。それは次に。

 

悪かったところ:ラストが酷すぎる

ラストの展開を観てぼくが感じたのは、「おれが観ているのは『溺れるナイフ』ではなく、『インセプション』だったのか!」。

『インセプション』についてはこちらをご参照ください。

movies.yahoo.co.jp

いや、『インセプション』にたとえるのは『インセプション』に失礼か。

ラストが、「現実なのか夢なのか」の境目をさまようだけならまだしも、「これは夏芽が見ている現実なのか夢なのか、それとも、夏芽を主人公にした劇中劇なのか」という3重構造のなかをさまようため、あまりにとっちらかりすぎているし、3重構造にする説得力のある描写もないので、もうわけがわからない。

こんなうやむやな状態で観客に結論を丸投げするのは、はっきり言って監督の怠慢でしょ。これもまた原作どおりなら、原作だってどうかしてると思うんですが…

 

というわけで、まとめ。

まるで毒ナイフで刺され、じわじわと体力と精神力を削られていくような作品でした。

『溺れるナイフ』、ぼくのような30代の男性向けではないことは確かです。観に来ていた観客のうち、9割9分が10代20代の女の子たちでしたが、そんな彼女らをもってしても、上映後の「なにこれ」的なざわつきは止められなかった。

じっさい、目も当てられないひどいシーンも多かったですからね…。

ただ、全体をとおして菅田将暉くんと、重岡大毅くんの演技は良かった。彼らは大いに評価したいと思います。菅田将暉くんと、重岡大毅くんのファンは、ぜひ劇場へ足を運んでいただきたい。

 

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2016/11/21 追記

少なからず、人気マンガの実写映画化を望まない原作ファンというのが存在します。『溺れるナイフ』もそのひとつだったかもしれません。

こちらの記事では、「人気マンガの実写映画化問題」についてぼくの考えを書きました。

実写映画化に反対の方も、賛成の方も、ぜひお読みくださいませ。

www.motomurahajime.com

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