良い知らせと悪い知らせがある

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「ポスト312」映画。君は生き延びる事ができるか? 映画『サバイバルファミリー』の感想、レビュー

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筆者の厳選記事5選

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こんにちは、もとむらはじめ(@motomurahajime)です。

今日...というか、昨日の夜遅くですが、いつもの立川シネマシティで新作映画を観てきましたよ。いやあ、日曜夜遅い回の劇場って、空いてるし静かだしで、集中して映画を観るにはちょうどいい環境ですね。

そんな日曜のレイトショーで観てきた映画は...

『ウォーターボーイズ』『スウィングガールズ』で知られる矢口史靖監督の最新作『サバイバルファミリー』でございます。

それでは、さっそくレビューへとまいりましょう。

※今回の記事はネタバレも含みますので、鑑賞前の方はご注意ください。

 

映画『サバイバルファミリー』

www.youtube.com

映画『サバイバルファミリー』公式サイト

【原題】サバイバルファミリー

【公開】2017年2月11日/日本

【上映時間】117分

【監督】矢口史靖

【脚本】矢口史靖

【声の出演】小日向文世、深津絵里、泉澤祐希、葵わかな

【あらすじ】東京に暮らす平凡な一家、鈴木家。さえないお父さん(小日向文世)、天然なお母さん(深津絵里)、無口な息子(泉澤祐希)、スマホがすべての娘(葵わかな)。一緒にいるのになんだかバラバラな、ありふれた家族…。そんな鈴木家に、ある朝突然、緊急事態発生! テレビや冷蔵庫、スマホにパソコンといった電化製品ばかりか、電車、自動車、ガス、水道、乾電池にいたるまで電気を必要とするすべてのものが完全にストップ!ただの停電かと思っていたけれど、どうもそうじゃない。次の日も、その次の日も、1週間たっても電気は戻らない…。情報も断絶された中、突然訪れた超不自由生活。そんな中、父が一世一代の大決断を下す。(公式ホームページより)


映画.comの評価平均点 3.3 点 / 評価:29件

Yahoo!映画の評価平均点 3.66 点 / 評価:218件

僕の評価は100点中 80点


矢口史靖監督の作品といえば、ツッコミどころ、ご都合主義じゃないかと思うところなどありましたが、個人的には非常に楽しめました。

僕のざっくりとした感想は...

同じく東宝映画で去年の大ヒット作『シン・ゴジラ』や『君の名は。』が「ポスト311映画」だとしたら、『サバイバルファミリー』は、東宝映画が新たに問題提起した、「312映画」だ。

 

なぜ「ポスト312映画」なのか

最近よく「ポスト311」なんて言葉を聞くようになりました。映画における「ポスト3.11」とは、2011年3月11日に起こった東日本大震災以降、劇中に震災を想起させるテーマを忍ばせたり、震災じたいをテーマとして扱った映画のことを言うようです(「ようです」というのは、ちゃんとした定義があるわけではないから)。

『シン・ゴジラ』では、ゴジラは明らかに311の震災や原発事故のメタファーですし、『君の名は。』では、彗星衝突や突然連絡が取れなくなったふたりといった、311を想起させるドラマが展開されました。

『君の名は。』を「ポスト311映画」としてレビューした記事がありましたので、貼っておきますね。

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ひるがえって、『サバイバルファミリー』で描かれる家族たちのサバイバル生活は、明らかに東日本大震災が起きた後の、大量の帰宅難民、その後の物資不足、買い占めといった一連の現象を想起させます。

その反面、『シン・ゴジラ』でいうところのゴジラや、『君の名は。』でいうところの彗星衝突といった「災害そのもの」に関しては、ほとんど描かれません。

『サバイバルファミリー』の「災害」にあたる電気消滅は、突然起きて、市井の人々の生活や価値観を突然ひっくり返してしまう。そして、上映時間の大半を割いて描かれるのは、震災当時の帰宅難民や物資不足といった、「震災の後から起こったこと」。

だからこそ、「ポスト311」というよりも、「ポスト312」と呼ぶほうが、もしかしたら適切ではないかと思うわけです。

災害が起きた「後」にフォーカスを当て、エンターテイメントに昇華させた矢口史靖監督、称えて余りある功績だと思います。

 

電気がなくなるという恐怖

東日本大震災が起こった直後、電車が動かない、電話がつながらない、流通が滞る...というトラブルがあり、わが国は未曾有の社会不安に見舞われたわけですが、『サバイバルファミリー』でも同じような事態が描かれます。

まあ、言ってしまえば「ああ、そんあこともあったよねえ」という懐かしさや忌々しさを含んだ感情が沸き起こる映画。

ただ、「電気が消滅すると如何に怖ろしいことがおこるか」というフィクションを、こちらが想像する以上に「リアルに」見せてくれた点には、もう拍手を送りたいですね。

「いや、たしかにこりゃヤベえぞ」と思うことしきり。

たとえば、電気がなくなるということは、それすなわち「情報の断絶」。携帯やスマホはもちろん、テレビもねえ、ラジオもねえ、情報社会と言われる現代において、いかに情報の断絶が怖ろしいか。

劇中でもっとも「ああ、これは確かに恐ろしいし、心が折れるわ」と思ったのが、「明日の天気すらわからない」こと、「デマをデマと確認する術すらない」こと。食料の問題やインフラの問題はサバイバルの知恵で何とかしのげたとしても、「どこに向かえば電気があるのか、いつ電気が復旧するのか、いつこの雨は止むのか」。それすらわからないって、もう恐怖でしかない。


さらに、最後まで明らかにならない「電気が消滅した原因」。ラストでは識者があーだこーだ仮説を立てるに留まってましたが、これって「見えない怪獣」、すなわち「正体不明の恐怖」なんですよ。

『サバイバルファミリー』では、人の死や荒れる人心みたいな、本来ならもっと起こっているであろうシビアな展開はあまりない(なくはない)ため、「ぬるい」という感想を持った方も少なくないかもしれませんが、僕は最後まで明らかにならない「電気が消滅した原因」が、コメディで描かれるサバイバル生活に常に横たわる、最大級のホラー要素として機能していたように思えました。上映中ずっと、いい意味での気持ち悪さが拭えなかったですね。

『シン・ゴジラ』を世に送り出した東宝が、2017年に新たに送り出した「ポスト312映画」の名を冠するにふさわしい映画と言えるのではないでしょうか。

 

個人的に、「ここはこうしてみたい」と思ったところ

ツッコミどころやご都合主義的なところは確かにありました。

劇中の家族はあてもなく鹿児島への旅をしていましたが、「普通なら線路や大きな道路に沿って進むだろう」と思ったり、本作最大の「泣かせ」シーンでも、「あそこでよく外を見る余裕があるなあ」なんて思ったりもしましたが...

それはまあ、突っ込むだけ野暮ってことで。

 

ただ、個人的には音楽の使い方に言いたいことがなくもない。

本作では、異変が起こった後から明らかに手持ちカメラでの撮影に切り替わります。手持ちカメラでドキュメンタリーを撮影しているような感じ。それが臨場感を醸し出すわけですね。

 

「臨場感」で言ったら、『クローバー・フィールド』もよく出来てる

 

だからこそ、異変が起こっている間、すなわち非日常のシーンの間はずっと、音楽は使わなくていいんじゃないかな、と。もういっそドキュメンタリー然として撮影している方が、リアルを感じられたと思うんですよね。

それまでサバイバーの一人としてドキュメンタリーを見入っていたところに、劇中の感動的なシーンや絶望的なシーンで、音楽とスローモーションのコンボ。これで「あっ、映画を観てるんだった」と観客側の視点に引き戻されてしまうのは、正直興ざめ。

序盤の日常と、ラスト間際の「異変を経たあとの日常」のシーンでのみ音楽を使い、その間の非日常シーンでは、まったく音楽を使わない。そうした方が、「非日常の非日常性」がより際立ったような気がしますね。

 

というわけで、まとめ

この作品はぜひ、エンドロールまで観てほしい。上映開始で映し出されるのは、東京の夜景、そして、エンドロールの背景には、これまた東京の夜景。

これって、最初に当たり前のようにある日常の夜景を見せておいて、劇中で電気消滅という非日常を乗り越えた後、ふたたび日常に戻ってから見る東京の夜景。

同じ東京の夜景なのに、なぜか違って見える。「当たり前って、なんて幸せなことなんだ」こんな感動的な体験はなかなかないですよ。

2017年、始まってまだ1ヶ月半ですが、今年鑑賞した映画のなかでトップ10に入る候補作品だと思ってます。個人的に。


まったくマークしてなかったけど、観て得した気分。おすすめです!