良い知らせと悪い知らせがある

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本当に良い映画も、良くない映画もレビューします。

セックス・ドラッグ・ギャンブルと自転車競技の映画「疾風スプリンター」(ネタバレ)

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筆者の厳選記事5選

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こんにちは、もとむらはじめ(@motomurahajime)です。

1月も1週間が経過してようやく2017年の新作映画のレビューでございます。

とはいえ、この時期の映画界隈って、『ローグ・ワン』や『ファンタビ』みたいに冬休み映画がまだまだ絶賛放映中でして、これといった新作映画がないのが現状でありまして...

 

そこで、僕が愛聴するTBSラジオ『ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル』の今週の課題作品『マイルス・デイヴィス 空白の5年間』もいいかな~とは思ったんですが、どうしても食指が動きませんで。

けっきょく今月の推薦映画に選抜した、ダンテ・ラム監督の自転車競技映画『疾風スプリンター』を観に行ってきたわけでございます。

 

 

疾風スプリンター

youtu.be

公式サイト:

映画「疾風スプリンター」公式サイト

【公開】2017年1月7日

【原題】破風 To The Fore

【上映時間】124分

【監督】ダンテ・ラム

【出演】エディ・ポン、チェ・シウォン、ショーン・ドウ

【あらすじ】チョン・ジウォン(チェ・シウォン)をエースとする、自転車ロードレースの強豪チーム「チーム・ラディアント」に、アシストメンバーとしてチウ・ミン(エディ・ポン)とティエン(ショーン・ドウ)が加入する。誰よりも速く走ることを目指して、血のにじむような努力を重ね絆を育み、力を合わせてチームをけん引していく三人。だが、ライバルの「チーム・ファントム」と激しい攻防を繰り広げる中、チームが資金難に陥ってしまう。(Yahoo!映画)

映画.comの評価平均点 4.00点 / 全2件

Yahoo!映画の評価平均点 4.00点 / 全6件

僕の評価は100点中 45点

セックスとドラッグとギャンブルは若者の人生を狂わせることがあるけど、これって映画にも言えることだなあという教訓を得ました。

では、鑑賞後の感想を。

 

『疾風スプリンター』のよかったところ

疾走感バツグンの自転車レース!

まあ何を差し置いても自転車レースのシーンは最初から最後までどこを切り取っても「圧巻」の一言。もう人間ドラマなんてこの映画の贅肉にしかなってないくらい。上映時間124分のうち、自転車レースと最低限の人間ドラマに絞れば、90分位に収まったんじゃないかなあ。

自転車レースと聞いてまず頭に浮かぶのは、週刊少年チャンピオンで絶賛連載中の『弱虫ペダル』。

 


僕は5年ほど前まで毎週定期購読していたくらいのチャンピオンっ子でありまして、それまでまったく知らなかった自転車レースの世界を、実に面白く、興味深く、熱く描き、そしてキャラ萌えまでさせてくれた漫画というのは、『弱虫ペダル』をおいて他にはなかったのですよ。

ちなみに僕は巻ちゃん推しっショ。

 

というわけで、「ケイデンス」とか「スプリンター」とか「ヒルクライム」とか、自転車の専門用語についてのニワカな知識は持っていたので、レースのシーンはそれなりに楽しめましたよ。

もちろん、劇中ではレースの実況というかたちで専門用語の解説は挟まれるんですが、目まぐるしく移り変わるレースの展開と字幕を同時に追うのはかなり困難で、できれば鑑賞前にこちらのサイトで予習されることをおすすめしておきます。

ロードバイク/自転車用語集 - koukoku_no_URA

 

まあでも、ところどころ専門用語がわからなくても、十分に楽しめます。まずカットのテンポが実に気持ちいい。潔いほどバッサバッサと切っていくんですよね。俯瞰のショットで集団の全体像を見せておいて、次に主人公チームのレース運びを引きの画で撮る。それで集団から主人公たちが飛び出したら、顔だったり足元だったりのどアップ。そういった巧みな編集で、レースの緊張感を臨場感たっぷりに魅せてくれます。

 

レースの過酷さがわかる予告動画がこちら。

www.youtube.com

さらに、この手のヘタな映画にありがちなスローモーション、人物のモノローグ(ひとり語り)を極力排除して、レースの疾走感を失わないようなつくりになっているのも良かったですね。どうしてもそういうシーンを入れたがる監督さんとかいると思うんですけど、あれって本当に中だるみするので。

もうひとつ付け加えておくと、「根性でケイデンス回したから勝った」とか「仲間を信じる思いが力になった」とか、そういったエモーショナルな理由ではなくて、ちゃんと心理戦だったり技術的な駆け引きだったりが勝敗を決定づける要因になっていたのも、非常に好感が持てましたよ。

 

伝統の「エンドロールでNG集」

まさか『疾風スプリンター』でこれが観られるとは思いませんでした。厳密に言えばNG集というよりもメイキング映像なんですが、レースの撮影中にキャストが転倒したり、大けがして搬送されてたりと、往年のジャッキー・チェン映画を観ているような多幸感すらありましたよ。


さすがにここまで無茶なNG集じゃなかったけど...

www.youtube.com


本編開始前の制作会社のクレジットがやたら多いのは気になったけど、エンドロールは尺の短さと、まさかのNG集というオマケがついているので、まあプラマイゼロってことで。

このあと書きますが、どうしても人間ドラマのパートがグダグダで蛇足的で映画の贅肉にしかなってなかったので、ラストの自転車レースとエンドロールで「終わりよければ全てよし」みたいな気分になったのはたしか。

 

『疾風スプリンター』の残念だったところ

いつの時代の人間ドラマだ!ほぼ削ってよし!

『弱虫ペダル』読者の方ならおそらく理解していただけると思うんですけど、もし坂道くんと鳴子くんが寒咲さんの取り合いをして、しかも寒咲さんが坂道くんから鳴子くんに乗り換えするようなビッチ女の子だったらどうです?ゲンナリでしょ?『疾風スプリンター』ではそんなゲンナリする人間ドラマをわりと真面目にやってたり。


本当にクオリティの高い自転車レースを、本当にクオリティの低い人間パートがダメにしていたのは残念。主人公のチウ・ミンとティエンが心底童貞くさい「ヒロインのシーヤオの気を惹く合戦」をやってたかと思ったら、中盤チウ・ミンはパツキンのおね~ちゃんとウフフな一夜を過ごし、それがゴシップ誌にスキャンダルされてシーヤオにフラれ、シーヤオは勢いでティエンとくっつく始末。

一方のティエンはというと、自分のスタミナの弱さをドラッグで補っていたことが発覚し、スター選手の地位から転落、ギャンブル狂いになってとうとう借金まみれ。その借金返済のために韓国の競輪選手として糊口をしのぐ日々... 

いやいや、前半は極力ドラマ部分を削って自転車競技の面白さを存分に見せてくれるような展開だったから期待してたのに、中盤以降の目も当てられないような低レベルの人間ドラマがことごとく台無しにしていってました。

先にも書きましたけど、このへんの人間ドラマは蛇足で贅肉でしかないので、削って削ってトレーニングとレース、どうしても人間ドラマを入れるなら、それはチームメイト同士のイチャイチャにとどめて置くべきだった。これやっておけば、ちょうど上映時間90分くらいに収まって、自転車レース映画の傑作が誕生したんだと思うんですけどね。

 

というわけで、まとめ。

制作会社の意向か何かでどうしても恋愛とか友情とかいった人間ドラマを入れざるを得なかったんですかねえ~ それがなければ80点はつけてもいいくらいのスポーツ映画になったはずなんですけど。実際に自転車競技をやっている(やっていた)人が観たら、また違った感想が出てくるんじゃないかと思います。

『疾風スプリンター』、この3連休に気楽に観られる映画としておすすめしておきますね。