美しいは正義。人は見た目で判断される。映画『ネオン・デーモン』レビュー。
こんにちは、もとむらはじめ(@motomurahajime)です。
本日観てきた映画は、『マッドマックス 怒りのデス・ロード』ブラック&クロームエディションが公開されるなか、こちらも静かに話題となっている、ニコラス・ウィンディング・レフン監督の映画『ネオン・デーモン』でございます。
立川シネマシティでは一番規模の小さいハコで上映されているものの、ほぼ満席。パンフレットはSold Outで入手できず!もう少し大きいハコでやればもっと人が来そうな気もしますが...まあ、とりあえず1回めの鑑賞を終えてまいりました。
- 『ネオン・デーモン』のあらすじとか
- 難しいけどクセになりそうな映画
- エル・ファニングちゃんが美しくて怖ろしい
- 【ネタバレ】実はおぞましいほどのサイコホラーだった
- 美への欲望や嫉妬は、決して他人事じゃねえんだよなあ...
『ネオン・デーモン』のあらすじとか
映画『ネオン・デーモン』公式サイト|2017年1月13日(金)全国順次ロードショー
【原題】The Neon Demon
【公開日】2016年/フランス、デンマーク、アメリカ合衆国
【上映時間】117分
【監督】ニコラス・ウィンディング・レフン
【音楽】クリフ・マルティネス
【衣装】エリン・ベナッチ
【あらすじ】トップモデルを夢見て故郷の田舎町からロサンゼルスに上京してきた16歳のジェシー。人を惹きつける天性の魅力を持つ彼女は、すぐに一流デザイナーや有名カメラマンの目に留まり、順調なキャリアを歩みはじめる。ライバルたちは嫉妬心から彼女を引きずりおろそうとするが、ジェシーもまた自身の中に眠っていた異常なまでの野心に目覚めていく。モーテルで働く男ハンク役にキアヌ・リーブス。(映画.com)
映画.comの評価平均点 3.30点 / 全15件
Yahoo!映画の評価平均点 3.00点 / 全45件
僕の評価は100点中 70点
ざっくりとした感想を言うと...
観る前「おっ!キレイなおね〜ちゃんがいっぱい出とるやんけ!観たろ彡(^)(^)」
観た後「どえらいサイコホラーやったでホンマ...彡(。)(;)」
女の嫉妬をニヤニヤしながら観る映画と思いきや、お腹が痛くなるくらいのサイコホラー映画だった『ネオン・デーモン』のレビューへとまいりましょう。
難しいけどクセになりそうな映画
ニコラス・ウィンディング・レフン監督といえば、2012年に公開されたライアン・ゴズリング主演『ドライヴ』が知られているところですね。
僕も『ネオン・デーモン』の予習として観ましたが、カーチェイスやバイオレンスなアクションはあるけど、全体的には「スッキリしない映画」という印象でした。そのレフィン監督の最新作で、「『ドライヴ』を超える衝撃」と銘打たれた『ネオンデーモン』。身も蓋もない話をすると、『ドライヴ』以上に「1回で理解できるはずがない」映画。
『ドライヴ』にあったアクションやカーチェイスなど、いわゆる「アガる」シーンはほとんどなく、『ドライヴ』以上にキャラクターの内面を表す象徴的な画だったり、色だったり、レイアウトだったりが多用される映画でした。ただ、「わかりにくいからダメな映画」ではないんですよね。
ものすごく頭を働かせて「あれは、ああいう意味だったんじゃないのかな」「監督はこういうメッセージを込めたんじゃないかな」と、鑑賞後に自分のなかで噛み砕くことに快感を得られるタイプの映画です。たとえば、後でも書く「色使い」だったり、「図形のモチーフ」だったり、「鏡を覗き込むシーン」だったりと、演者のセリフ以上に画でいろんなメッセージを訴えかけてきます。非常に情報量が多い。
それらを以てして「わたしにはわからん!だからダメな映画!」と断じるにはもったいなさ過ぎるし、むしろ僕は2回、3回と観て自分のなかで納得行くまで解釈をこねまくりたいと思いましたね。
エル・ファニングちゃんが美しくて怖ろしい
エル・ファニングといえば、アンジェリーナ・ジョリー主演『マレフィセント』のオーロラ姫ですよ。
出典:http://www.disney.co.jp/movie/maleficent
『マレフィセント』で13歳だったエル・ファニング。『ネオン・デーモン』では16歳(撮影中に17歳)という、おそらく女性が人生のうちもっとも美しい頂点、少女が女になるモラトリアム期にあって、自分の美しさを自覚し、武器とすることに目覚めた主人公・ジェシーを演じています。
最初は「そんなに美人かねえ?」と思ったんですよ。もちろん綺麗だし可愛いんですけど、本作で彼女のライバル・サラを演じたアビー・リーの方が、実際にスーパーモデルだし、ビジュアルでは文句なしに「ビューティー」だろうと思ってました。
『マッド・マックス 怒りのデス・ロード』のダグも演じたアビー・リー
対してエル・ファニングは、白人としては鼻は低いし、どっちかというと丸顔だし、モデル体型ではないしで、あらゆる面で「モデルっぽくない」と感じていました。美人なんですけどね。でも、実際に本作を観てみると... 映画のオープニングから、エル・ファニング演じるジェシーが「死美人」を撮影しているシーンからはじまるわけですけど、これがまあ、息を呑むくらいエル・ファニングが美しい。一気に目が釘付けになります。
『ネオン・デーモン』はポスターにも使われている「死美人」のシーンからはじまる
出典:https://letterboxd.com/film/the-neon-demon/
クリフ・マルティネスの音楽も絡めて、「背筋が伸びる」オープニング。このオープニングで僕が感じたのは「ああ、モデルというより、お人形さんだな」。これ、とても大事だと思ってて。可愛さが振り切りすぎてて「可愛い」とか「綺麗な」とかって言葉で言い表せない女性を「お人形さんみたい」って形容しますよね。あんな感じ。
「美」という悪魔がジェシーというイレモノに憑依している。モデルではなく、人形だからこそ「悪魔的な存在感」がある。「ああ、なるほどこれは、『人を引きつけるネオン』のデーモンだ!」と、我ながら「我が意を得たり」の境地でした。
何より印象的なのは、物語中盤でジェシーが「ダークサイドに堕ちるシーン」。ここでは「青い正三角形と赤い逆三角形」のシンボルが非常に象徴的に使われます。このシーンって、ただただジェシーが撮影用の衣装とメイクをして、ネオン輝くランウェイ?を歩くだけなんですけど、「正三角形は男性、逆三角形は女性をあらわし、赤色は怒り、青色は抑制をあらわす」といった、様々な解釈の余地がありすぎて、観た人によっていろんな意味付けができる、『ネオン・デーモン』でもっとも象徴的なシーンです。
『ゼルダの伝説』の”逆トライフォース”とも言うべき逆三角形
このシーンひとつとってもいろんな捉え方ができます。僕もいろんな意味を考えました。あえて別の映画に例えると...
『スター・ウォーズ エピソードIII シスの逆襲』よりオビ=ワン・ケノービの言葉を借りて。
"You were the chosen one! It was said that you would destroy the Sith, not join them! Bring balance to the Force, not leave it in darkness!"
「おまえは選ばれし者だった!シスを滅ぼすはずが、それに加わるとは!フォースに均衡をもたらすはずが、闇の中に葬るとは!」
この難解な作品を少しでも理解するために、僕は主人公のジェシーに、ダークサイドに堕ちるアナキン・スカイウォーカーを見たんですよね... わかっていただける方はいらっしゃるかな?笑
【ネタバレ】実はおぞましいほどのサイコホラーだった
予告の時点では「嫉妬が渦巻く女の戦いなのかな」とか、「現実と妄想の区別がだんだんつかなくなっていくのかな」などと思ってたので、近い映画として2010年のナタリー・ポートマン主演『ブラック・スワン』を想像してたんですが、『ネオン・デーモン』は「カタルシスのない、『ブラック・スワン』のホラー部分を凝縮したサイコホラー」でした。
僕の人生ベスト映画トップ5に入る『ブラック・スワン』
『ブラック・スワン』は、クライマックスのチャイコフスキーの『白鳥の湖』をバックにホワイトスワンとブラック・スワンを死を賭して演じる主人公で涙腺崩壊するカタルシスがありましたが、『ネオン・デーモン』にはそのタイプのカタルシスがない。
「美しい」「妖しい」と感じるシーンはあれど、最初から最後までどこを切り取っても「快感ッッッ!」と思えるところがなくて、ずっとヒリヒリする緊張感と「おぞましいほどの美しさ」でお腹が痛くなりました。劇中ラスト近く、とある人物が本当に腹痛を訴えるシーンがあるんですけど、「4DXより連動感あるなあ~」なんて思ったり。
それはいいとして。どんな業界でも言われることですし、タレント業界やモデル業界ならなおさらなんでしょうけど、「食うか、食われるかの世界」でしたね。本当にそれをやるとは...(ネタバレ)
あのシーンがまったくの現実離れした、映画ならではのフィクショナルなシーンではなくて、「振り切ったら誰だってやっちゃいそうだな」と思えたのって、誰しもが「美は力であり、美しいは正義」と、暗黙のうちに納得している、させられているからではないでしょうかね。
「人は渇望する『力』を手に入れるためなら、何だってする」。
実際、現実にはカネという「現実を生き抜くための絶対的な力」を手に入れるために、当たり前のように事件が起こったりしているわけですから。
美への欲望や嫉妬は、決して他人事じゃねえんだよなあ...
「モデル業界が舞台だけど決して他人事じゃねえよな」。というのが、『ネオン・デーモン』鑑賞後の、僕の最初の印象。だれしもが自分よりかっこよかったり、可愛かったりする他人に嫉妬するし、異性にフラれたら自分の見た目のせいにするしで、どんな人間だって「美」というものに取り憑かれているものだからこそ、僕はこの映画を客観的に観ることができませんでした。
努力次第で克服できることもあるけど、『ネオン・デーモン』で描かれる、生まれ持った「美」という絶対的な基準が、他の何よりプリミティブで生々しいからこそ、観ている人間の心に響いてくるんだと思います。
さらに言えば、「何らかの基準を以って人間を階級づける世界」って、どこにでもあるし、どこにでも見いだせますよね。
さっき書いたカネの力、「財力」だってそうだし、ちょうどいま行われているセンター試験だってそう。いくら受験勉強を頑張っていようが、有名な進学校、進学塾に属していようが、学力を点数で示せない者は容赦なく叩き落される。学校や、受験や、就職や、会社...どこにでも存在する、暗黙の基準によって人間は区別されているというのは、抗いようのない真実です。
ぜひ、自分の中にある「自分がもっとも渇望する『力』」に照らし合わせて観てみてください。
具合が悪くなるくらい、おぞましいシーンもあるんですけど、なぜかクセになるんですよね。僕はまた観たいと思いました。『ネオン・デーモン』は非常に難解、でも何度も観たいと思わせる映画です。「綺麗なおね~ちゃんがいっぱい出るから観てみよう」で観に行ったら打ちのめされること間違い無し。
輸入盤サントラ。レフィン映画の音楽にハズレなし。