良い知らせと悪い知らせがある

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本当に良い映画も、良くない映画もレビューします。

欅坂46の件で改めて観ておきたいナチス、ヒトラーが描かれた映画11選

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筆者の厳選記事5選

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photo by Daniel Harvey | Flickr

欅坂46のメンバーがTwitterに投稿した、ハロウィンのコスプレが物議をかもしています。Twitter上でもいろんな意見がかわされていますね。

www.huffingtonpost.jp

人気アイドルグループ「欅坂(けやきざか)46」のライブ衣装がナチス・ドイツの制服に酷似しているとして、アメリカのユダヤ人団体が抗議、プロデューサーの秋元康さんが謝罪した問題を受けて、放送が予定されていた音楽番組が中止になったことが11月2日に発表された。

こういう問題って、本当に慎重に扱わないといけないんですが、わが国の報道や欅坂46のファン以外の方のコメントなどを見ていると、「不謹慎」「認識不足」「歴史を知らないバカ」みたいな風潮があるように思います。

気になるのは抗議した団体。ほとんどの報道では「サイモン・ヴィーゼンタール・センター」って、「アメリカのユダヤ人団体」としか語られてないですよね。これ、どういう団体かちゃんと調べて報道したほうがいいような気がしますよ。

ぼくはナチスを擁護する立場にありませんし、ナチスがユダヤ人に対して行ったホロコーストは断罪されるべきだと思っていますが、かと言って「国際」とか「ユダヤ」って名前がついただけで、無条件に謝罪して歌番組まで自粛って、腰が引けすぎちゃいませんか。反論して事務所つぶされるようなおっかない団体なら、それって国際ヤクザじゃん…

っと、これ以上書くと趣旨が変わってくるので、さっそく11選に移りましょう。

 

改めて観ておきたいナチス、ヒトラーが描かれた映画11選

選抜の前に、次のようなルールを設けたいと思います。

・「サウンド・オブ・ミュージック」「ライフ・イズ・ビューティフル」「シンドラーのリスト」「戦場のピアニスト」は、語られすぎて手垢のついた感があるので、今回はあえて外しています。

・あくまでぼくの好みで選抜しました。他意はありません。

 

キャプテン・アメリカ/ザ・ファースト・アベンジャー

 

第2次世界大戦中の1942年、スティーブ(クリス・エヴァンス)は、各地に進攻するドイツのヒドラ党と戦うことを望んでいた。もともと病弱な彼は入隊を何度も却下されていたが、ある日、軍が秘密裏に行う「スーパーソルジャー計画」という実験に参加することになる。その実験の被験者第1号に選ばれた彼は、強じんな肉体を持つ「キャプテン・アメリカ」へと変ぼうを遂げる。

いきなり大外からの選抜ですが、キャプテンの宿敵「レッドスカル」はナチスの一団体として登場します。

ホロコーストのような、現実にあったナチスの所業が直接的に描かれることはありませんが、映画というエンターテイメントにおいて、どれだけナチスが「便利な敵役」として扱われているか、よくわかる作品のひとつです。

 

武器人間

 

ナチスドイツとソ連が激闘を繰り広げている第2次世界大戦の東部戦線。ある任務を下されたソ連偵察部隊は、ナチスドイツの占領地域へと潜入する。やがて、彼らは古びた教会で大虐殺が行われた形跡を目の当たりにする。さらに教会を調べる彼らは、その地下に迷路のように張り巡らされた通路と研究室を見つけ出す。そこでは、フランケンシュタイン博士の末裔(まつえい)が不死身の武器人間を創造しようと、死体と機械をミックスするという禁断の行為に手を染めていた。

B級映画です。武器人間のビジュアルそれじたいは面白いんですが、改造手術のシーンや虐殺シーンはグロそのもの。よほど耐性がないと観られないシロモノです。

先日お亡くなりになられた俳優の肝付兼太さんが、主人公のマッド・サイエンティストの声を担当されています。予告のナレーションが、アニメ「ドラえもん」の声を担当された大山のぶ代さんというのもぶっ飛んでる。

 

イングロリアス・バスターズ

 

1941年、ナチス占領下のフランスの田舎町で、家族を虐殺されたユダヤ人のショシャナ(メラニー・ロラン)はランダ大佐(クリストフ・ヴァルツ)の追跡を逃れる。一方、“イングロリアス・バスターズ”と呼ばれるレイン中尉(ブラッド・ピット)率いる連合軍の極秘部隊は、次々とナチス兵を血祭りにあげていた。やがて彼らはパリでの作戦を実行に移す。

クリストフ・ヴァルツ演じるハンス大佐がいいですね。序盤の農園でのシーンの緊張感、ケーキに火の付いたタバコを突き刺す非道ぶり、最高です。これほどの悪がいたか!

徹底的にナチスをこき下ろした作品で、公開時はユダヤ系観客から喝采を受けたそうです。月並みで頭の悪そうな感想をあえて述べると、映画の内容そのものより、この観客の反応こそ「考えさせられる映画」です。

 

アイアン・スカイ

1945年、連合軍の猛攻撃にさらされ、アドルフ・ヒトラーが率いていた「第三帝国」ナチス・ドイツは完全に敗北。しかし、その一部のエリートたちはひそかに月の裏側へと逃亡を図り、秘密基地を建造していたのだった。第2次世界大戦の終結から70年超にわたって独自の軍事テクノロジーを発展させ続け、虎視眈々(たんたん)と連合軍への復讐(ふくしゅう)の機会をうかがっていた彼らは、2018年、ついに決行のときが到来したと判断。UFOの大編隊を組んで、地球侵略を開始する。

まあ~これも便利な悪役としてのナチスが描かれていますね。しかも、この作品も相当ナチスをこき下ろしている。ナチス・ドイツの国歌が流れると、戦闘中であっても「ハイル・ヒトラー」のポーズを取ってしまうとか。バカ(褒め言葉)か。笑 

一方で、襲来するナチスに対し、アメリカがとった行動もこれまた腹黒いものがあり、ただ単に「ナチス絶対悪」を描いた作品ではないところが特徴です。

 

黄金のアデーレ 名画の帰還

 

アメリカ在住の82歳のマリア・アルトマン(ヘレン・ミレン)は、グスタフ・クリムトが描いた伯母の肖像画で第2次世界大戦中ナチスに奪われた名画が、オーストリアにあることを知る。彼女は新米弁護士ランディ(ライアン・レイノルズ)の助けを借り、オーストリア政府に絵画の返還を求めて訴訟を起こす。法廷闘争の一方、マリアは自身の半生を振り返り……。

個人の所有物であったクリムト作『黄金のアデーレ』が、ナチスによって没収され、長年の裁判を経てもとの所有者の遺族に渡ったという史実にもとづいた作品です。

主人公マリアの生涯には、やはり第2次世界大戦という大きな歴史的事件がかかわってきます。オーストリアの一般市民の日常にナチス、ナチス的思想がどうやって浸透していったのか、にも注目。

 

ヒトラー ~最期の12日間~

 

1945年4月20日、ベルリン。ソ連軍の砲火を避けるために、ヒトラー(ブルーノ・ガンツ)はドイツ首相官邸の地下要塞に退却していた。すでに正常な感覚を失っていたヒトラーは部下に実現不可能と思える作戦を熱く語っていた。

「総統」シリーズでやたらネタにされがちですが、これほど真摯にナチス・ドイツ、ヒトラーと向かい合った作品もないでしょう。2時間30分のボリュームですし、ナチス・ドイツが滅亡に向かう段階のお話なので、鬱々としたシーンが続きます。

事前の知識が必要な部類の作品。登場人物や実際の事件について書かれたウィキペディアと照らし合わせながら、じっくりと鑑賞することをおすすめします。

 

イミテーション・ゲーム

 

第2次世界大戦下の1939年イギリス、若き天才数学者アラン・チューリング(ベネディクト・カンバーバッチ)はドイツ軍の暗号エニグマを解読するチームの一員となる。高慢で不器用な彼は暗号解読をゲーム感覚で捉え、仲間から孤立して作業に没頭していたが、やがて理解者が現れその目的は人命を救うことに変化していく。

直接ナチス・ドイツが登場するわけではありませんが、暗号解読の裏でどのような人間ドラマがあったのかが描かれています。

兵器でドンパチだけが戦争ではなく、兵器以上に情報というものが、いかに戦争に勝利するうえで重要なファクターだったのか、この作品では否応なく思い知らされます。

チューリングが残した暗号解読機が、後世のぼくたちにどういう影響を与えたのか、ぜひ味わってください。

 

サウルの息子

 

1944年10月、ハンガリー系ユダヤ人のサウル(ルーリグ・ゲーザ)は、アウシュビッツ=ビルケナウ収容所でナチスから特殊部隊“ゾンダーコマンド”に選抜され、次々と到着する同胞たちの死体処理の仕事に就いていた。ある日、ガス室で息子らしき少年を発見した彼は、直後に殺されてしまったその少年の弔いをしようとするが……。

ガス室で処刑されたユダヤ人の死体処理に従事するユダヤ人がゾンダーコマンドです。

身内の死体を身内に処理させるというむごたらしさ、それを、あえて登場人物に語らせず、あえて画面内で見せずして、ぼくたち観客に生々しい現場の空気、多くは語られない歴史の一面を伝えています。

とにかく重いです。覚悟して観よ。

 

顔のないヒトラーたち

 

1958年の西ドイツ・フランクフルト。第2次世界大戦の終結から10年以上が経過し、復興後の西ドイツではナチスドイツの行いについての認識が薄れていた。そんな中、アウシュビッツ強制収容所にいたナチスの親衛隊員が、規約に違反して教師をしていることがわかる。検察官のヨハン(アレクサンダー・フェーリング)らは、さまざまな圧力を受けながらも、アウシュビッツで起きたことを暴いていく。

アウシュビッツ強制収容所の裁判が、戦後20年経っても、戦犯の特定も証言者の聞き取りも手付かずだったことに驚かされます。さらに、戦争が終わってもナチスの呪縛からは逃れられないことも。

戦争中のナチスの悪行は知っていても、その後どのようにして罪が裁かれていったのか、どのようにして解体されていったのか、この作品をとおして、改めて調べてみようと思った作品です。

 

アイヒマン・ショー/歴史を映した男たち

  

1961年、ホロコーストに関与し、数多くのユダヤ人を強制収容所に送り込んだ元ナチス親衛隊将校アドルフ・アイヒマンの裁判が行われることになった。テレビプロデューサーのミルトン・フルックマン(マーティン・フリーマン)と、撮影監督レオ・フルヴィッツ(アンソニー・ラパリア)はこのニュースに関心を持つ。彼らは裁判の模様を放映しようと意気込み……。

個人的にマーティン・フリードマンという役者さんが大好きなので、観た作品。

アイヒマン裁判を「ショー」として、全世界に中継しようとした男たちの物語です。いわば、「はたらくおじさんの奮闘記」。

巨大な組織に対するジャーナリズムの戦いを描いた作品だと、最近は『スポットライト 世紀のスクープ』も面白かったですね。

 

帰ってきたヒトラー

 

 ナチス・ドイツを率いて世界を震撼(しんかん)させた独裁者アドルフ・ヒトラー(オリヴァー・マスッチ)が、現代によみがえる。非常識なものまね芸人かコスプレ男だと人々に勘違いされる中、クビになった局への復帰をもくろむテレビマンにスカウトされてテレビに出演する。

今回紹介する11選のなかでもっともオススメしたいのが本作。

ナチスの思想がどうやって一般市民に浸透していったのか、なぜヒトラーは熱狂的に支持されていったのか。第2次大戦前の時代背景と、閉塞気味な現代が似ているからこそ、説得力があり、緊迫感もある作品です。しかも、それを笑えるコメディにしてしまっているところがまた良い意味で恐ろしい。

 

というわけで、まとめ。

ナチスにさわることはタブーとされている一方、海外ではヒトラーやナチスを題材にした映画は数多く制作されています。

ナチスを悪として描く作品もあれば、笑いの対象として描いた作品もある。誤解を恐れずに言えば、それだけ題材(とくに悪役として)として扱いやすく、観客に訴えるものがあるからでしょう。

今回の欅坂46の件も、「コスプレしたアイドルちゃんの無知が悪い」「衣装を着させた大人が悪い」という意見はあるでしょう。そこから一歩踏み出して、「なぜ国際的な団体が出てくる事態になったのか」「謝罪して終わり、でよかったのか」まで考えないと、ナチスが出てきたら為す術もなく思考停止なんて、良いわけない。ぼく自身、記事を書きながら思った次第です。