良い知らせと悪い知らせがある

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本当に良い映画も、良くない映画もレビューします。

なぜ人気マンガの実写映画は「面白くない」のか。

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筆者の厳選記事5選

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photo by Maki Maki

『鋼の錬金術師』『ジョジョの奇妙な冒険』『銀魂』『BLEACH』と、ここ数年、人気マンガの実写映画化はとどまるところを知らないという状況です。

現在、思いつくかぎり実写映画化が決定しているマンガ作品を挙げてみると…

3月のライオン
鋼の錬金術師
ジョジョの奇妙な冒険
銀魂
BLEACH
亜人
無限の住人
いたずらなKISS
帝一の國
攻殻機動隊
東京喰種
曇天に笑う

こんな感じでしょうかね。

先日、実写版『鋼の錬金術師』の特報映像が公開されたときも、賛否両方の意見がツイッター上で飛び交いました。

www.motomurahajime.com

こういった実写化のニュースが流れるたび、特報映像が公開されるたび、原作ファンの阿鼻叫喚が巻き起こるのも、もはや風物詩となりましたね。

ところで、筆者のスタンスとしては、人気マンガの実写映画化を頭ごなしに否定する側には立っていません。お客さんが劇場に足を運び、結果的に映画業界が潤うのであれば、どんどんやればいい。

ただし、それが「映画的に完成度の低い実写映画であれば、映画評で酷評する」。

その立場で、なぜ「面白くない」人気マンガの実写映画が量産されるのか。考えてみました。

マーケティング重視でつくられたから面白くない

すべては『GANTZ』『いぬやしき』の作者である、奥浩哉先生のツイートに集約されています。

まさにそのとおりで、人気マンガの実写映画は、面白いか面白くないかにかかわらず、まず映画化されるということで話題となり、次にキャストで話題になり、それが年に1、2回しか映画を観に行かないライトな層を呼ぶわけです。

その証拠に、「NAVERまとめ」にマンガ原作の実写映画の興行収入ランキングがまとめてありましたので、こちらを載せておきますね。

matome.naver.jp

1位 「THE LAST MESSAGE 海猿」 80.4億円

2位「BARAVE HEARTS 海猿」 73.3億円

3位「テルマエ・ロマエ」 59.8億円

4位「るろうに剣心 京都大火編」 52.2億円

5位「テルマエ・ロマエ2」 44.2億円

6位「るろうに剣心 伝説の最期編」 43.5億円

7位「SPACE BATTLESHIP ヤマト」 41.0億円

7位「のだめカンタービレ 最終楽章 前編」 41.0億円

9位「のだめカンタービレ 最終楽章 後編」 37.2億円

10位「GANTZ」 34.5億円

個人的に観ていない映画が多いな…と思いつつ、海猿なんて合わせて150億以上ですからね。どれだけ人気マンガの実写映画が、コンテンツとして「強い」かがうかがえます。

ただし、マーケティング主導で作られた映画が「面白いかどうか」なんて、そこまで重要じゃないんですよね。批判を承知で言えば、映画的リテラシーの低いライトな層が、「映画的完成度の高さ」よりも、「話題性のある映画を観た」ことに満足してくれれば、興行として成功しているのだから。

これから実写映画化が予定されている『鋼の錬金術師』も、『ジョジョの奇妙な冒険』も、『銀魂』も、そうやってマーケティング的に消費されていくわけです。そりゃあ原作ファンは怒るよって話。

じつは、筆者のこの考察に近いことを映画評論家の町山智浩さんが言及されています。町山さんは、「最近のハリウッド映画がフラストレーションを発散できない理由」というテーマでお話されていますが、これを「面白くない人気マンガの実写映画」に置き換えても同じことをおっしゃっています。


古い動画ですが、町山さんの解説はこちら。

www.youtube.com

 

制作者の熱量が足りないから面白くない

町山さんの解説を引き受ける形で。

多くのマンガ原作の実写映画は監督、脚本の熱量が圧倒的に足りていません。要するに、「原作の読み込みが足りない」とか「原作のエッセンスが理解できていない」とかいうやつです。

興行的に成功すればいいのであって、映画の面白い・面白くないは二の次。最低限、制作費が回収できればOKという考えのもとでは、監督の力量云々は別としても、熱量のこもった映画ができにくいのは事実としてあるでしょう。

制作側の熱量が、原作ファンの熱量を圧倒的に下回っている。

これが、実写映画が熱狂的な原作ファンから叩かれる理由であり、映画的に面白くない実写映画が量産される理由です。

一方で、監督が原作を読み込み、原作を噛み砕いて、作品のエッセンスを抽出したとしても、原作ファンの「思ってたのと違う」になれば、面白くない映画のレッテルを貼られる場合もあります。

まさに、マンガ原作の実写化が「針の穴を通す作業」と言われるゆえんですね。

この針の穴を通す作業を上手くクリアして見せた作品としては、『闇金ウシジマくん』や『アイアムアヒーロー』が挙げられるでしょうか。(皮肉にも、「熱狂的すぎない」ファンによって支えられている作品ですが)

実写映画ではありませんが、片渕須直監督、能年玲奈(のん)主演の『この世界の片隅に』というアニメ映画はご覧になりましたか?

この映画は、大手映画会社や広告代理店が企画したものではなく、クラウドファウンディングで資金を募って制作された映画です。

原作マンガである、こうの史代先生の『この世界の片隅に』は、『鋼の錬金術師』や『ジョジョの奇妙な冒険』ほどの知名度はありませんし、クラウドファウンディングで資金集めをしていたくらいですから、話題性だって他のマンガに比べれば高いほうじゃないですね。

つまり、客入りや興行収入といった、マーケティング面ではまったく「弱い」作品だったわけです。

それでも、片渕須直監督はこの作品に惚れ込み、監督の熱意あるショートフィルムを観た多くの人が、映画化を熱望した。その結果、近年稀に見る傑作映画が誕生するに至ります。

『この世界の片隅に』は、マーケティング的には弱い作品でありながら、監督の熱意と熱量が多くの人の心を動かし、さらに傑作として世に出た、稀有な例かもしれません。

それともうひとつ、原作に「熱狂的すぎる」ファンがついていなかったのも功を奏していますね。

 

というわけで、まとめ。

人々に多く知られる知名度の高い作品ほど、ライトな観客層を呼び込み、興行収入というビジネス面で成功が見込める反面、公衆の眼に晒され、原作ファンからも映画ファンからも叩かれる率が上がるということになります。それでも、映画がビジネスである以上、評判よりも「興行収入」が優先されるのは、致し方のないこと。

よく「この作品だけは実写化しちゃだめだ」みたいな声があがりますが、本当に人気マンガの実写化をとめたいのであれば、ライトな観客層が映画を観に足を運ぶ、その行動を止めることです。まあ、無理な話でしょうが。

いずれにしろ人気マンガの映画化が儲かる以上は、たとえミスキャストであろうが原作レイプであろうが、原作ファンは見守るしかないですね。

ただ、実写映画化が発表された時点で、特報映像が公開された時点で、悲観するのは早計ではないかな、とも思っていて。ちゃんと映画本編が公開されて、その目で観てから駄作だ傑作だと判断するべきというのが、ぼくの意見です。

これは別の記事で書くつもりですが、原作ファンというムラ社会で、「わたしたちの大好きな原作が実写映画で汚されるのは許せない!」という、エゴイズムに端を発する批判なんて、客観的に観たら気持ち悪いだけですから。

 

2016/11/21 追記

というわけで、実写映画化を快く思わない原作ファンに対する反論記事を書きました。

www.motomurahajime.com