クリスマスのカップルにオススメしたい最恐の映画『ドント・ブリーズ』のレビュー
出典:映画.com
こんばんは、もとむらはじめ(@motomurahajime)です。
ここ数日のブログ更新が隔日だったのは、「ガチで風邪を引いていたから」という言い訳をさせていただきます... みなさまも体調にはくれぐれもお気をつけくださいませ。
さて、体調も回復したということで、今日も新作映画を観てまいりました。
本日とりあげる映画は『ドント・ブリーズ』です。
映画『ドント・ブリーズ』 | オフィシャルサイト | ソニー・ピクチャーズ
あらすじ
親と決別し、街を出るため逃走資金が必要だったロッキーは、恋人のマニーと友人のアレックスと一緒に大金を隠し持つと噂される盲目の老人宅に強盗に入る。だが彼は、目は見えないが、どんな“音”も聞き逃さない超人的な聴覚をもつ老人――そして想像を絶する<異常者>だった。
真っ暗闇の家の中で追い詰められた若者たちは、怪しげな地下室にたどり着く。そこで目にした衝撃的な光景に、ロッキーの悲鳴が鳴り響く――。 彼らはここから無傷で《脱出》できるのか――。(『ドント・ブリーズ』公式サイト)
製作にスプラッター映画の金字塔『死霊のはらわた』の監督・脚本であるサム・ライミが参加しており、2016年末の最注目ホラー映画として封切りとなった本作。
好事家が集まる映画かと思いきや、筆者の行きつけである立川シネマシティの会場には、女子高生からおじさんまで、様々な年齢層の観客が集まっていました。
まさに「良い映画は老若男女を選ばない」であります。期待が高まります。
ただ、筆者のようにひねくれた映画オタクは思うわけですよ。普段映画を観ない客層、「今年観た映画は『名探偵コナン』と『君の名は。』だけです」みたいな客層が集まると、よそから飲食物を持ち込んだり、上映中にスマホ開いたりする輩が出てきて、ろくなことがない...
案の定、筆者の隣の席に座ったのは「高校生カップル」。この子らがまた、予告の映像の間はまだしも、本編が始まってもまだ余裕ブッこいてコソコソと話よるわけですよ。
で、びっくりするシーンや怖いシーンになると、女の子の方が手に持ったペットボトルをギュッと握りしめよる。そのたびに「ペキッ」って音はするし、ちょっと一息つくようなインターバルのシーンになると「さっきの怖かったね~」などとまたコソコソしゃべりはじめる始末。
オイお前ら!この映画は『ドント・ブリーズ』やぞ!!
俺がブラインドマンだったら真っ先にお前らの脳天に風穴空けてるやるからな!!
...などと思いながら映画を鑑賞しておりました。
まあ半分は冗談ですが、この作品は『ドント・ブリーズ』というタイトルが示すとおり、「静寂が恐怖を生み出す映画」で、ちょっとした呼吸音、物音が重要なギミックとなっています。「息をするな」とまでは言いませんが、上映中のおしゃべりやスマホのバイブレーションなどもってのほか。
そのあたりに気をつけて鑑賞されることをオススメします。
では、レビューへとまいりましょう。
『ドント・ブリーズ』は「メタルギア」と「青鬼」のミックス
ぜひ映画館で体験してほしいのですが、『ドント・ブリーズ』はとても「ゲームっぽい」。
既存のゲームで言えば、小島秀夫監督の代表作で、ステルス・アクションの金字塔である『メタルギア』がもっとも近いでしょうね。
メタルギア
『ドント・ブリーズ』はこれの「見つかったらアウト」ではなく、「物音を立てたらアウト」バージョンです。
さらに言うと、「恐ろしい敵から逃げつつ、閉じ込められた家から如何にして脱出するか」という点で、RPGツクール製のフリーホラーゲームとして有名な『青鬼』も、本作に近いものがあります。
青鬼
かくれんぼ的な要素に脱出ゲーム的な要素も加わり、さらには全体にギンギンのホラーテイストが散りばめられているので、好事家からすればそれだけで射精してしまいそうなほど気持ちいい映画になっているわけです。
ブラインドマンの恐怖を体験せよ
放送禁止用語をはばかることなく使います。
あえて言おう、「めくらは武器である」と!
「座頭市」の居合の達人、市。
「ローグ・ワン」の棒術の達人、チアルート。
そして『ドント・ブリーズ』の退役マッチョ老人、ブラインドマン。
みな、ナメてかかる健常者など簡単に殺せる程度には強い。
『ドント・ブリーズ』の主人公は強盗グループのひとりであるロッキーとなっていますが、いやいや、ブラインドマンが本作の主人公であることは言うまでもないでしょう。演じたのは、スティーヴン・ラング。
日本ではおそらく『アバター』のクオリッチ大佐でご存知の方も多いかもしれませんね。一部の熱狂的なファンの間では、「『アバター』は大佐映画である」と称されるほどの人気キャラです。
クオリッチ大佐
そのスティーブン・ラングふんする「The Blind Man(ブラインドマン)」。イラク戦争で目を負傷し、盲目となった退役軍人で、人気のない住宅街に番犬とともにひっそりと暮らす老人です。
御年63歳にしてこのマッチョ!
あらすじにも書かれているとおり、ブラインドマンは退役軍人というキャリアはさることながら、いかなる音も聴き逃さない異常な聴覚の持ち主。
まさにギンティ小林氏の名言
「ナメてた相手がじつは殺人マシーンでした」
筆者は、尊敬の念を込めて、また畏怖の念を込めて言うのであります。
「めくらとナメてた相手がじつは殺人マシーンでした」
もうブラインドマンがスクリーンに映し出されるだけで緊張感は高まり、恐怖心を煽られ、ただただ「息をするのも忘れて」スクリーンに釘付けになってしまうんです。
カメラワークに注目!
「尋常じゃない強さのめくらジジイが殺しにくる家からサヴァイブせよ」
というフレッシュなコンセプトに加え、ホラー映画としては(筆者はそこまで数を観ているわけではないですが)非常にフレッシュなカメラワークが本作の持ち味です。
これが『ドント・ブリーズ』が「ゲームっぽいルック」に見える要因のひとつであることは間違いありません。
ただカメラがゲームっぽく動いているだけではなく、ちゃんと観客の恐怖心を煽るように計算されているところがミソ。
「暗闇」が本作の舞台ですから、とにかく暗闇の見せ方に非常にこだわっているんですね。
たとえば主人公のロッキーの後頭部から撮っていたカメラがグーッと移動して、スクリーンの端にロッキーの後頭部、ど真ん中にいかにもな「闇の空間」。
カメラが寄るとそこには...「ブラインドマンが銃を構えて立っていた!!」
ギィヤアアアアアア!!!
という、お約束というか、先が読めるんだけどやっぱり怖いカメラワークもありながら、また同じように「いかにも何かが飛び出してきそう」と思わせる不自然な「闇の空間」を作り、観客の緊張感のボルテージを最高潮に持ってきておいて...... 「実は何もありませーん!」
ホッと一息つけるかと思いきや、実は背後に銃を突きつけているブラインドマンが立っていた!!
ギィヤアアアアアア!!!
という、「はずし」までやってくれるサービスぶり。
この恐怖心と緊張感を煽ってくるカメラが、一番いい仕事をしているのが中盤。
部屋の明りが断たれた完全な暗闇のなかで逃げ惑うロッキーとアレックスのシーン。視覚に頼るしかない健常者が光を奪われ、暗闇の中でこそもっとも殺人ポテンシャルを発揮するブラインドマンに、為す術もなく蹂躙されるシーンのアガりっぷり、手に汗握りっぷりと来たら!
まさにこのシーンこそ、「ドント・ブリーズ」。呼吸でもしようものなら容赦なく弾丸が撃ち込まれる恐怖。かと言って、この部屋から逃げなければ、いずれはブラインドマンに気づかれてしまうという、極限の緊張感のなかでの攻防が繰り広げられます。
しかも面白いのは、「発泡される=一瞬だけ部屋が明るくなって視野が開ける」という、諸刃の剣的なギミックがしっかりと活かされているところ。
ここもいくら言葉で説明するよりも、劇場で恐怖感と緊張感を体験するべき!
【ネタバレ】後半、夜が明けてからの展開
強盗グループのたったひとりだけが恐怖の夜をサヴァイブし、ブラインドマン宅を脱出することができるんですが、そこでお話は終わらない。脱出したかと思いきや、まるでターミネーターのごとくブラインドマンは追ってくる。
この時点で家を脱出し、夜も明けてしまっているので、「息もできないほどのサヴァイブの緊張」も「どこから襲われるかもわからない暗闇の恐怖」も、この時点で終わりなわけです。
これは展開上で仕方のないことだったのかもしれませんが、どこまでも襲ってくるブラインドマンの緊張感はまだしも、暗闇でこそ活きた恐怖感はかなり削がれてしまいました。
ブラインドマンの番犬が活躍(脱出した者を追跡)するシーンは、筆者の隣りに座っていたあの高校生カップルがクスクス笑っていたくらいですから。
欲を言えば、最後まで息もできない暗闇のなかで襲われる恐怖を味わいたかった。どうしても、後半の夜が明けてからの展開がオマケ的に見えてしまったのは残念。
【ネタバレ】ラストの解釈、筆者の場合
これまたとんでもなくネタバレ。
ラストが衝撃的でした。
死んだと思っていたブラインドマンが実は生きていて、後日のニュースでは「自宅に侵入してきた強盗に立ち向かった勇敢な老人」という、英雄的な扱いをされている。
物語の中盤、ブラインドマンが吐き気をもよおすほどのサイコパス(異常者)だったことが明らかとなりますが、それを踏まえてのこのラストシーンは、「胸糞悪い」「後味が悪い」という思いもあれば、逆に「やったれブラインドマン!」という胸のすく思いもあるでしょう。
筆者は非常にセンシティブな感想を持ったのですが、もしブラインドマンがただの健常者なら、さほどの衝撃はなかったかもしれません。
ブラインドマンが「強盗に入られた可哀想な視覚障害者の老人だったから、彼の異常性は不問に付された」と深読みすると、非常にゾッとする思いを致すのです。
日本でも問題になったじゃないですか。日本テレビの「24時間テレビ」とNHKのEテレの「バリバラ」の件。「感動ポルノ」という言葉も一時期よく耳にしましたよね。(でも2016年の流行語大賞にノミネートすらされていない)
必要以上に美化したり、感動の材料にしたり、ときには腫れ物にさわるかのように障害者を扱っている日本のメディアと、どこか重なるところが見えてしまう、『ドント・ブリーズ』のラスト。
ここでハッと気づくわけです。
「めくらの老人から金盗むなんて余裕」というナメ。
「強盗に入られた視覚障害者の老人かわいそう」という同情。
これらは、映画『ドント・ブリーズ』が観客のわれわれに突きつける「お前ら障害者だからってナメてんじゃね?色眼鏡で見てんじゃね?」という胸をえぐってくる問い、なのではないかと。
ブラインドマンが視覚障害者だったというだけでなく、「老人」「退役軍人」というところも加味して考えると、ラストの解釈がいろいろと広がっていきそうです。
筆者はこのラストにこそ、「他人事ではない恐怖」を感じましたよ。実は『ドント・ブリーズ』は非常に普遍的で重いテーマを扱っているのではないかと。
これぞ最上級のB級ホラー映画!これぞサム・ライミ作品!!
クリスマスのデートムービーとしてもオススメではありますが、観た者どうしで熱く語り合える映画としてもオススメです。
日本の各中学校は「障害者を理解するための教育」の一環として『ドント・ブリーズ』を全校集会で上映するように。(PG-12)
ただし、上映中は「ドント・ブリーズ」!